知財戦略：企業価値の向上と持続的な社会貢献

「人が手掛けないことこそやる」。これは、当社創業者の加藤由雄の言葉であり、今現在も東海理化社員に脈々と受け継がれてきた普遍的な精神です。当社のパーパス「『技術の進化』と『人』をつなぎ、感動をかたちに」を実現するため、今後の知財戦略の見直しを図っていきたいと考えています。
これまで当社の知財戦略は、自社製品を模倣や侵害から守るための「守り」を中心に展開してきました。製品開発に合わせて特許を出願・権利化し、競合との差別化や市場での優位性を確保することで、製品の信頼性やブランド価値を支えてきました。
今後はこの守りの戦略を土台としつつ、攻めの知財戦略へと転換していきます。オンリーワン・ナンバーワン技術の創出に取り組み、創出した技術は製品化だけでなく、知的財産権としてライセンス型事業にも展開します。特許ライセンスを主軸とした事業モデルは、売上に対する利益率が高く、企業全体の収益を支えている事例もあり、技術そのものを価値として提供することで、従来の製品販売型モデルとは異なる収益の柱を築いていきます。「モノを売る」だけでなく「コトを提供する」ことで、少人数でも高収益を実現できる体制へとつなげていきます。
こうした知財戦略の根幹を支えるのが技術開発です。内製化にこだわらず、外部との共創に加え、出資やM&Aを積極的に行いながら、スピードと柔軟性を兼ね備えた開発体制を構築していきます。これにより、技術力の向上と人財育成の両立を図り、未来の事業基盤を築いていきます。
そして、これらの取り組みを効果的に機能させるためには、開発力の強化に加え、知財部門の機能強化と経営との連携を一層深めることが不可欠です。経営戦略・開発戦略・知財戦略を三位一体として連動させることで、技術の価値を最大限に引き出していきます。その結果として、企業価値の向上と持続的な社会貢献をめざしていきます。

企業価値向上のシナリオ

当社は、「ヒューマン・インタフェースシステム」「セキュリティシステム」「セイフティシステム」といったコア技術である「人とクルマをつなぐ技術」を基盤に、社会課題の解決と新たな価値創造に挑戦しています。この挑戦を支えるのが、知的財産戦略です。当社は、知財戦略活動を通じて、早期に知財ポートフォリオを構築し、競争優位性の確保につとめています。
また、TRV2030に基づき、知的財産を経営資源の一つとして位置付け、経営戦略および開発戦略との連携を強化しています。経営戦略部門・開発部門と早期に連携し、特許情報・非特許情報を総合的に整理・分析することで、経営判断に資する情報を提供し、事業の方向性と投資の最適化を図っています。
これらの取り組みにより、経営に資する開発テーマの選定を可能とし、持続的な成長と競争力強化を実現します。当社は、知的財産の創出・活用を経営の重要課題と位置付け、企業価値の向上に向けた取り組みを加速していきます。

知財活動における人的資本

当社は、社員による発明提案活動の促進を通じて、イノベーションを創出する企業風土の醸成と人財の育成をめざしています。これらの取り組みの一環として、発明者インセンティブ制度（報奨制度）の見直しを進めており、今後は技術者をはじめとする発明者に対する適切な評価と還元の強化を図っていきます。とりわけ、企業の成長や競争力の向上に大きく寄与した発明に対しては、創造的な取り組みが正当に報われる制度設計を行い、技術力および知的財産の質的向上を推進していきます。今後も、知的財産活動を通じて人的資本の価値を最大限に引き出し、発明者への公正な評価と還元を実施していきます。

特許優位性確保の事例

1 苦い経験から学び、先手を打つ特許ポートフォリオ構築

当社では、過去にダイヤルタイプのシフトバイワイヤシフターにおいて、シフターの基本性能をダイヤルタイプに当てはめた特許を他社に先行して取得され、ライセンス許諾を受けざるを得ないという苦い経験をしました。
この反省を踏まえ、今後の市場展開が予想され、まだ特許で押さえられていないトグルタイプやステアリングコラムタイプなどの新しいシフター形態に対して、他社に先駆けて権利化を進めてきました。その結果、タイプ別に特許ポートフォリオを構築することができました。
左図に示すように、当社のシフトバイワイヤシフターに関する特許は、量（特許ファミリー件数）および質（Patent Asset Index：特許ポートフォリオの総合的な競争力）の両面で競合他社を上回る水準となっており、知的財産を武器に製品拡販を強力に推進していきます。

2 規格化と知財で市場を創る

当社がスマートキー・デジタルキー向けに培ってきた高精度UWB測距技術は、ドローン配送における着陸精度の課題解決に応用可能です。
現在、ドローン着陸に関する国際標準規格は未整備であり、当社は業界団体への技術提案を通じて規格策定に取り組み、社会実装の加速をめざしています。併せて、技術開発と知財取得を戦略的に進めることで、規格に紐づく技術領域を押さえ、収益性のある事業として継続的に社会課題を解決するしくみを構築しています。
このように、規格化と知財を両輪とした取り組みにより、新たな市場創出を実現していきます。

知財戦略の詳細

当社は、事業の持続的成長と競争力強化に向けて、知的財産を活用した「守りの戦略」と「攻めの戦略」を展開しています。
クルマの既存製品では、自社製品の権利保護を目的とした「守りの戦略」により、市場での優位性を維持しています。
クルマの次世代製品では、競争優位性の確保を目的に、「守りの戦略」に加え、特許情報を活用して注力領域を見極め、集中的に出願する「攻めの戦略」を推進していきます。
クルマ以外の新領域では、事業化の加速を目的に、企画段階から関連部門と連携し、特許・非特許情報を活用して参入判断や戦略策定を行います。策定された戦略に基づき、先行的な発明創出活動を徹底することで、他社に先駆けた知財ポートフォリオを構築する「攻めの戦略」を強化していきます。

知財教育・人財育成

当社は、設定した知財戦略に基づき、中堅技術者や新入社員などの層別に知財教育を実施し、知財リテラシーの向上につとめています。
また、知財戦略活動の新たな取り組みに対しては、社外セミナーの活用と、開発部門・知財部門と連携しながらOJT形式で実践的に学ぶことで、社内定着を図っています。