経営基盤強化:DX(TRX)

Vision 人と技術をデジタルでつなぎ、価値創造を加速するDX
DXでTPSに磨きをかける~データの活用によるデジタル業務変革~

執行役員
山岸 康一郎
当社ではDXを進めるにあたって、トヨタ生産方式(TPS)の基本に立ち返ることを出発点としています。必要な情報を適切なタイミングで入手し、正常・異常を判断。異常があれば迅速に原因を追究し、改善サイクルを回す。モノをつくる現場だけではなく、開発から生産・物流に関わる全ての職場で業務効率を上げて、質の良い仕事ができることをめざしています。単なる業務効率化にとどまらず、設計品質の精度向上による製品の信頼性確保、原価のつくり込みによる競争力強化、生産準備の効率化による開発から量産までのリードタイム短縮、よりリーンな(ムダがなく効率的な)生産計画と実行など、モノづくり全体の高度化に取り組みます。
こうした考え方をもとに、以下の観点を取り組みの軸としています。
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- 業務フローの再確認と大胆な見直し
- 各業務が後工程で価値を生んでいるか、どんな情報がどこで必要なのか、業務と情報の流れを再確認し変革する
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- データ活用基盤の整備、高度化
- 必要なデータが必要なときに活用されるように、マスターデータ管理やデータ連携の体制を強化していく
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- 業務の定型化と自働化による効率化
- 繰り返し業務は属人化した部分を形式知化して自働化(人の知恵を含んだ自動化)し、メンバーはより創造的な業務に挑戦できるように変えていく
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- 改善のスピードと柔軟性
- 小さく試し、改善サイクルを早く回して、データの「見せる化」ではなく、真に現場で有効に活用されるかたちへと進化させていく
ローコードツールによる市民開発も身近になり、生成AIも年々驚くべきスピードで進化していることから、それらを適切にベンチマークし、活用していくことが重要です。そのためにも、ITリテラシーや生成AIの効果的な活用などの教育も充実させていきます。
これらの取り組みを通じて、全員参加で未来に向けた企業価値の向上と持続可能な成長を力強く推進していきます。
重点取り組み事項
2つのチェーンを貫くかたちでモノづくりの流れを根本から見直し、業務プロセスの刷新を通じて全社最適をめざす活動に取り組んでいます。製品開発から生産・物流に至るまで製品ライフサイクル全体にわたる知見を形式知化し、組織全体で共有・活用できるしくみを整備することで、業務の質とスピードの両立を図ります。その結果として、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)のさらなる向上をめざします。
エンジニアリングチェーンでは競争力の源泉となる「Quality」のつくり込みが第一です。設計から生技の間で3Dを活用し、現場の知恵や知見をデジタル技術で活用して、優れた製品機能・高効率で安定した生産工程を産出していきます。サプライチェーンでは、エンジニアリングチェーンの情報をもとに、原価企画から原価管理までをつなぎ、「Cost」を賢く管理・改善します。また、短期間で生産準備を整え、量産段階ではムダのない効率的な生産計画を立てて実行することで「Delivery」の精度を高めていきます。さらには市場の動向・グローバルな生産戦略などのデータをベースに、地域に応じた戦略を臨機応変に立案できる体制を構築します。
DX推進を支える4つの基盤
持続可能な未来の創造に向け、以下の4つをDX推進を支える基盤と位置付けています。
これらの取り組みを支える根幹には、人的資本経営の考え方を置き、社員一人ひとりの成長と価値創造を重視し「人と技術の協働による価値創出」を実現していきます。
DX推進体制
DX化をスピーディに推進するため、2021年2月に各部門のリーダーを兼務化した「DX推進タスクフォース」をエグゼクティブオフィス直轄組織として結成しました。
2023年4月には設計領域のDX化をさらに強力に推進するために、「DX推進タスクフォース」を「(BI)※DX推進室」と位置付け、専任組織化しています。
※Business Innovation
| 2021年2月 | DX推進タスクフォース結成 |
|---|---|
| 2021年10月 | 経済産業省DX認定事業者に選定 |
| 2022年3月 | 産業事業適応計画認定取得 |
| 2023年4月 | エグゼクティブオフィス直轄 (BI)DX推進室設立 |
| 2023年9月 | 経済産業省DX認定事業者を更新 |
| 2025年9月 | 経済産業省DX認定事業者を更新 |
人財育成
ローコードツールを使ってアプリの開発ができる市民開発者の育成に加えて、AIを使った業務変革を現場主導で進められるAI人財の育成を行い、社員が自らデジタル化による業務改革を進められる環境づくりを行っています。
段階的な教育コンテンツの拡充により、全社員のITリテラシーを底上げしつつ全社のトランスフォーメーションの実現に向けたIT人財育成を推進しています。

DX活用事例
生産準備リードタイムの短縮
部品の生産準備段階で3D/3DA※データを活用し、自動寸法測定や自動帳票作成を実現しています。ばらつきのある作業は標準化・自動化し、高精度なデータを蓄積してAIで解析。次期モデル設計へフィードバックすることで、初回金型の精度向上につながり、従来のトライアンドエラー工程からの脱却を図っています。これにより、品質の安定化だけでなく開発期間の短縮にも貢献しています。
そして将来的な金型設計の自動化という理想像を見据えつつ、現在は着実な歩みを重ねています。
※3DA:3D Annotatedの略。3Dに寸法や注記などの製造情報を付加したもの
生産実績データのデジタル化
紙帳票を起点とした生産実績の集計業務は、現場の工数を圧迫する課題となっていました。現在は、実績データをデジタルでリアルタイムに取得・共有できるしくみを構築し、管理者は品質や生産性向上に注力できるようになりました。このようにして、現場と経営をデータでつなぐ取り組みを通じて、データ活用の幅を広げています。

技術部門でのAI活用
社内に蓄積された設計要件書、設計ノウハウ、過去トラブルの対策事例などを生成AIに学習させることで、設計者が抱える技術課題に対し瞬時にノウハウを提示できる運用を始めました。
これにより、設計者が膨大な資料を手作業で探す必要がなくなり、自ら構想を整理したうえで上司に相談するというプロセスが定着し、意思決定の迅速化と業務効率化につながっています。
設計プロセス改革
技術継承と開発革新への挑戦

執行役員
野上 敏哉
当社の開発は、製品の複雑化、開発スピードの加速、そして人財の世代交代が進むという大きな転換期を迎えています。こうした環境下では、ベテラン技術者のもつ知見を形式知として蓄積し、デジタル技術と掛け合わせることが、今後の競争力を強化するうえで重要な鍵となります。
現状の設計現場では、設計資料の検索に時間がかかることや、デザインレビュー(以下、DR)が属人的で全社知見の織り込みが難しいこと、モノづくり現場を知らない経験の浅い設計者が失敗を繰り返しやり直しが減らないことなど、技術継承のしくみが整っていないことに起因する課題が散見されます。
そこで当社は、トヨタ生産方式(TPS)の思想を基にモノと情報の流れをいったん整理し、長年の慣習で聖域化されてきた業務プロセスを大胆に見直すことで、デジタル活用の前提となる基盤を整えています。そこにデジタル技術を載せることで、設計情報を後工程にリアルタイムで反映できる環境や、生成AIを駆使して若手設計者への支援を行い、過去の知見を即座に反映できるしくみの構築を進めています。まずは小規模な範囲から試行を重ね、従来の設計変更を伴う開発スタイルから脱却し、やり直しなく量産品質をつくり込む開発文化への進化をめざしていきます。
DX推進により業務プロセスの課題を解決
業務プロセスの大胆な見直しを起点に、人間が行う必要のない作業は徹底的に機械に任せる「自働化」を推進しています。設計要件、製造要件、適用法規、過去の失敗事例、そしてベテラン技術者の知恵をデータ化し、生成AIを積極的に活用することで、高精度な設計を支援しています。これにより、品質と原価の両立を図った製品設計を実現し、やり直しによるロスを抑制することで開発工数を圧縮します。同時に設計者に対しモノづくりの現場を実際に体感してもらい製造側からの視点も植え付けています。限られた開発リソースを、より付加価値の高い創造的なプロセスへと振り分けることで、開発全体の生産性と競争力の向上をめざしています。