トップメッセージ

挑戦と変革で「技術の進化」と
「人」をつなぎ、
持続可能な社会に貢献
社長執行役員
2025年度を振り返って ―読めない変化への危機意識と過去最高業績
2025年度、当社は売上高6,447億円(前期比4.4%増)、営業利益356億円(同1.0%増)、経常利益437億円(同27.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益294億円(同13.1%増)となり、売上高・各利益ともに過去最高を更新し、ROEも9.0%と向上しました。期初に収益予想を立てた段階では、米国による関税政策をはじめ、「見えない」「読めない」要因が非常に多かったことから、慎重な数字を見積もりました。しかし結果として、関税の影響はお客さまと分担できる部分があった他、自動車の生産台数が堅調に推移したこと、さらには想定をはるかに上回る円安が進んだことなどが追い風となり、業績を押し上げました。
社内では「収益は悪化する」という前提で原価低減の旗を掲げ、当初の目標を達成できました。さらに一段上をめざした目標にはあと一歩届かなかったものの、社員の頑張りにより将来への積極的な投資を続けながら過去最高業績を更新できたことは、当社の「稼ぐ力」が着実に高まっている表れだと受け止めています。
ただ、自動車業界を取り巻く環境は、依然として予測困難な状況が続いています。2026年度については、中東地域をはじめとする地政学リスクや、原材料・物流費・人件費の上昇といったインフレ影響などの外部環境変化を想定し、減益となる計画を公表しました。厳しい事業環境ではありますが、目先の数字に一喜一憂せず、将来への投資を続けながら、将来予測には不確実性があることを前提に、変化に強い企業体質を築き上げていくことが、私たちの揺るがぬ方針です。
「TRV2030」1年目の総括 ―もがきながら、小さな芽が花ひらく
2025年度は、新たな中期経営計画「TRV2030」がスタートし、挑戦と変革のフィールドへと歩みを進めました。この計画は、私と副社長を除いた役員と中堅・若手社員から募ったメンバーでチームを組み、描いた10年後のありたい姿からバックキャストしてつくり上げたものです。クルマ・モビリティの「既存製品」「次世代製品」、そして「脱自動車」を掲げた「新領域・新規事業」の領域を定め、成長を実現していくものです。1年目の手応えを申し上げれば、「まだまだ」というのが正直な実感です。開発した技術は世の中に出て初めて価値になり、やりきった、送り出したという実感や達成感を得たときに、人は大きく変わります。今はその途上であり、試行錯誤を重ねている状況です。ただ、あちこちで小さな芽吹きがあり、花が咲き始めた領域が確かに生まれていることも感じています。
事業を展開する地域については、日本、北米、ASEAN、インドを重点地域としています。この中で、北米市場については、メキシコ拠点がもつ競争力を活用してきましたが、関税やカーメーカーの北米回帰の動きを受け、メキシコでの製造の競争力を高めながら、米国での自動化生産や生産量の変動に柔軟に対応できるラインの導入を進めています。北米地域の生産体制を見直し、「お客さまに近いところ」で何をつくり、どのように供給していくのかを追求していきます。中国市場は、現地カーメーカーが力を増す中、既存の資産を活かして利益の出る製品のみを継続する、この是々非々の姿勢で臨みます。そもそも中国へは、日系企業への製品供給のため進出した経緯があり、その原点を踏まえた見極めです。そして最も注力するのがインドです。市場そのものがこの数年で3~4割規模で拡大する中、トップシェアを誇るマルチスズキをはじめ多様な現地カーメーカーとの取引・提案を強化し、単一企業向けの製造体質脱却を図っています。ここでは「日本で開発し現地で生産する」従来型のビジネスは通用しません。2026年から現地に開発部隊を置き、長年の合弁パートナーであるウノミンダグループと連携して、生産や営業、人事労務に至るまで現地でなければ回せない領域を担っていきます。インドには両社で6つの生産拠点があり、インド全体を網羅する体制を構築していきます。インドをはじめとして、中国のレアアース(希土類)輸出規制に起因する、需給の逼迫にも注意が必要です。中国一辺倒の依存から、入手できなくても製品の生産に支障が出ないよう、カーメーカーと設計段階から協業し、「脱レアアース」製品の開発を進めていきます。
成長戦略の進捗 ―共創で3つの領域を具現化
「TRV2030」の成長戦略の核心は、社内外との「共創」にあります。社内においては、部門の壁を越えたメンバーで構成され一定の権限をもった「共創型チーム」が主役となって、3つの領域それぞれで具現化を進めています。
既存製品 ―かしこく設計し、かしこくつくる
当社のクルマ・モビリティ既存製品は、コモディティ化が進んだ部品も多いため、「かしこく設計し、かしこくつくる」ことに注力し、付加価値を生み出しています。例えば、車両の走行・操作を実現する機構部品は、カーメーカーをまたいで標準化することが可能で、すでにそうした製品を提案・供給し、各社のコスト低減に貢献しています。つくり方については、工程を集約して一方向で組める設計に改め、自動化を進めています。従来はモデルごとの専用ラインが生産終了後も工場に残りましたが、小さなモジュールを組み合わせて伸縮する「汎用モジュールライン」の導入で柔軟にかたちを変え、ロボットによる24時間稼働もめざします。役目を終えたモジュールは社内で保管し、次のモデルに備えますが、将来的には、協力会社にモジュールを貸し出す「ライブラリー化」を実現し、サプライチェーン全体で財産を分かち合う構想です。コモディティ化した部品でも設計と製法を変えれば十分成長できる領域であり、その手応えを確かに得ています。
次世代製品 ―HMIとセンシング技術で新たな価値を
次世代製品では、車内で人と車の接点となるHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)を進化させています。世界のデザイン潮流は、シンプルですっきりした車内へと向かい、機能をディスプレイに集約する動きもありますが、目的の操作に一度でたどり着けないという課題も生まれています。そこで当社は、通常時は消灯して内装に同化し、必要時にはスイッチに手をかざすとアイコンが点灯し、直接操作できるResponsive Hidden Switches(レスポンシブヒドゥンスイッチ)を開発、2026年6月発売のレクサスの新型ESに採用されました。また「人とくるまのテクノロジー展」(2026年5月開催)では、空中に操作盤が現れる「未来のスイッチ」を披露、高く評価いただき、実用化をめざして開発を継続しています。強みであるセンシング技術では、モーションセンシングという空中操作や音声操作による製品の開発を行っている他、心拍などを読み取るバイタルセンシングの活用も進めています。人の命を預かる車に私たちの技術を投じる価値があると考え、体調に起因する交通事故を未然に防げるよう、交通事故ゼロをめざしています。
新領域・新規事業 ―自ら渦を起こす脱自動車への挑戦
新領域・新規事業は、すぐに結果が出るものではありません。今は、種が芽吹き、花が開きはじめる気配があり、開花に向けた重要な時期です。新領域・新規事業には、共創型チーム自ら製品を生み出し、世に送り出し、売上を積み上げていく面白さがあります。自動車生産台数で売上が立つ部品とは違い、自ら渦を起こし実績をつくる達成感は社員にとって特別な経験になるはずです。リーダーとメンバーで構成する共創型チームが、会社の歯車ではなく、個人個人の小さな歯車でチームとして渦を起こす。その経験を組織に根づかせる大事なステージが今だと考えています。例えば、eスポーツ向けのゲーミングギアブランド「ZENAIM(ゼンエイム)」や社用車管理システム「Bqey(ビーキー)」は、車載部品とは開発のスピードがまったく異なります。部品の場合、より良いものへの改善はモデルチェンジがそのタイミングとなり、数年後を見据えた月単位でのスケジューリングがあたりまえです。しかし「ZENAIM」や「Bqey」では、競合との性能の競い合いがあるため、週・日といった単位でお客さまの声を開発に活かさなければ、選ばれる製品になりません。社員はこれまでとは違うスピード感で鍛えられ、新たな対応力を身に付けていきます。現代は、結果を求められる時代であり、うまくいかないものを長く続けることはできません。だからこそ、こうした経験で得た対応力がこれまでのあたりまえを変え、全社に広がっていくことを期待しています。
2025年11月から本格生産を開始した「BAMBOO+®」(竹繊維を配合する環境配慮型複合材料)は、地域課題の解決に取り組む製品でもあります。「BAMBOO+®」は、放置竹林による竹害が課題となっている高知県で、行政や地元林業組合、地場企業とともに、竹害をサステナブル材料という価値に転換したものです。当社の応援団とも言えるほど地域からの支持は大きく、こうしたスキームは今後も積極的に行っていきたい取り組みです。この他、カーボンニュートラルに大きく貢献するカーボンナノチューブの量産も始まりました。
こうした新領域・新規事業の取り組みは、当社をこれまでと違った目で見ていただく機会となっており、新卒採用では「ZENAIM」をきっかけに当社に興味をもっていただくこともあり、会社として非常に大きな変化を感じています。
経営基盤の強化 ―品質、DX(TRX)、サプライチェーン改革
成長戦略を確実に成果へ結び付けるため、経営基盤として「品質」「DX(TRX)」「サプライチェーン改革」を重点的に強化しています。
品質については、品質保証体制と担い手の育成を強化しつつ、人に依存しないしくみづくりも並行して進め、「品質で選ばれる東海理化」の土台を構築しています。その根幹にあるのが、モノづくりの「進化・深化・新化」です。長年培ってきたトヨタ生産方式(TPS)を、DX時代にふさわしいものへと磨き上げます。現場の問題をデータで刻々と捉え、過去の知見から打ち手を即座に導き改善のスピードを上げる「進化」、データから真因を掘り下げる「深化」、そもそも不良が起きず止まらないラインへと設備を変えていく「新化」で、生産性向上、原価低減を図ります。これまでのTPSでライン可動率を97%まで高めたとしても、3%、つまり年8日はラインが止まっていることになります。人手で積み上げてきた改善にDXとAIを掛け合わせた3つのシン化で、不良ゼロ・停止ゼロへの到達を早めていきます。ただ、DXやAIを本当の力にするには、データの信頼性が欠かせません。「データドリブン」もインプットを誤れば確実にアウトプットが悪くなります。何が本当かを見極める目をもつとともに、サイバーセキュリティを備え、3つのシン化を着実に進めていきます。
昨今、原材料の調達において、地政学リスクへの対応が不可避となっています。ただ、サプライチェーンでは、必要なものを必要なだけ流すという規律を保つことが基本であり、買い占めが起きれば総量が足りていても供給は途絶えます。この大前提を認識したうえで、在庫確保や調達先の分散を行い、地政学リスクに備えるべきだと考えています。
一方、私がそれ以上にサプライチェーンで重要だと考えているのは、日本の中小規模製造業の持続性です。多くは、特定の工程のみを担う専業企業であるため、一つの部品が完成するまでに複数の会社、長距離を移動する極めて非効率な物流が発生します。当社では、協力企業の事業承継課題に向き合いながら、複数の工程を担える企業へと進化できるようサポートしていきます。塗装を内製化できる「コンパクト塗装ブース」や先にご説明した「汎用モジュールライン」といった当社がもつ生産技術を、今後、サプライチェーン全体に提供・共有し、中小規模製造業の将来モデルの構築に貢献していきたいと考えています。
再生可能エネルギーの面でも、中部電力ミライズなどとの協業により、設備投資が負担となっていた中小企業でも、再エネ電力を購入しやすい環境が整いつつあります。取引先さまに対して、当社の敷地外発電所である「東海理化ソーラー」やトヨタグループが保有する再エネ電源からの電力を提供するなど、サプライチェーン全体で脱炭素に取り組んでいきます。
製品の設計から生産技術、モノづくりまでを一つの流れとして捉え直し改革していくことがサプライチェーンの強靭化であり、これからの競争力を左右すると考えています。
人と組織 ―「未来は自分たちでつくる」を根づかせる
これらの挑戦を支えるのは、やはり人と組織です。「未来は自分たちでつくる」という企業文化を共創型チームで根づかせていきます。共創型チームの強みは、最初から最後まで自分たちでやりきること。従来の縦割りのように工程ごとに受け渡すのではなく、一貫して担うことで視野が広がり、セクショナリズムが薄れ、一人ひとりの才能を使い切れるようになります。例えば営業社員が開発の視点をもち、開発担当者がお客さまの喜ぶ売り方に想いを巡らせる。立場を越えて知恵を出し合えることこそ、共創型チームの真価です。
ダイバーシティについては、一人ひとりが能力を発揮できる真の多様性をめざします。海外拠点では、米国やチェコのトップに現地人財を登用するなど変化が生まれています。出向・駐在という枠を超え、日本人が海外であたりまえに働き、海外の人財が日本本社で役員となり、ともにチームを組む。これからは、いまだ製造業に残る内向きの意識を変えていきたいと考えています。女性の活躍については、数年前、管理職を志す人はごくわずかでしたが、今では多くが次のステージへの意欲を示すようになりました。こうした変化をしっかりと受け止め成長につなげられるよう、2026年6月には女性社員有志によるコミュニティ「We Bloom」も発足させました。女性管理職比率はまだ決して高くはありませんが、次世代の女性リーダーが着実に育つ土壌が整いつつあると感じています。
併せて注力しているのが、ミドルマネジメントの変革です。今の管理職は、価値観の異なる複数の世代に同時に向き合わねばならず、一つのマネジメントスキルでは立ち行きません。これまで個人に任せ過ぎた面があったため、役職ごとに学ぶべきことの位置付けを見直し、教育の在り方を変えています。社内講師に任せきりにせず、私自身や役員も教育の先頭に立っています。先日は入社3年目までの若手約300人と、座談会を交えた講義の場をもちました。OJTとは別に日々の業務から一度離れ、腰を据えて学ぶ機会も設け、変革の担い手を育てていきます。
そして、全ての土台となるのは社員の健康です。「元気で笑顔のある会社」を掲げ、いきいきと働き続けられるよう健康施策を推進しています。
サステナビリティ ―自分たちが汚した地球を技術力で回復
サステナビリティに対する私の想いは一貫しています。地球を汚してきたのは、他ならぬ私たち自身ですから、自分たちの責任できれいにするのがあたりまえです。日本の海で獲れていた魚がいなくなるといった変化を見過ごすわけにはいきません。たとえ長い年月がかかろうとも、元に戻すまでやりきらなければならない。だからこそクレジットを買って相殺するカーボンニュートラルではなく、排出そのものをなくす「カーボン・エミッション・ゼロ」に近づけたいと考えています。大切なことは、働く人がCO2排出の変化を実感できることです。例えば、多くのガスを使用する塗装工程がなくなれば、CO2排出を大幅に低減できます。燃費が倍になればCO2は半分となるハイブリッド車はすでに優れた技術力でCO2低減を実現しています。技術によって目に見えるかたちで排出をなくしていく。技術立国日本だからこそ、こうしたかたちで示していくべきだと思います。
2025年に新設したサステナビリティ委員会では、既存活動の状況報告ではなく、これまで当社で表立って議論されることが少なかった事案を取り上げています。人権や差別といった社会課題は非常に大きなテーマであり、現在、正面から向き合っています。真に社会的責任を果たす企業としての経営基盤を構築するため、サステナビリティ委員会の実効性を高めていきます。
資本戦略と株主還元 ―応援団に支えられ成長する東海理化へ
資本戦略では、2030年度のROE10%を目標に、事業戦略と資本戦略を両輪として、全てのステークホルダーに配慮した経営を進めます。自前で資産を厚くもつ日本のBtoB企業は、構造上、PBRが一朝一夕には変わりません。当社ではPBR1.0倍を目標としつつ、そこへ至る道のりは一定期間を見据えており、その間、株主還元を重視していきます。一つは、株価を安定的に高め、安心して保有し続けていただく。当社が強力な「応援団」に支えられるイメージです。もう一つは、株主還元の柱である配当です。数年前の水準から大きく引き上げ、2026年度は120円とすることを宣言しており、累進的な還元を続けます。
事業で生み出した資金は、株主還元とともに、既存領域の生産技術投資、成長をめざす新領域の開発投資、デジタルキーや新素材などの新規事業へと戦略的に配分し、中長期の企業価値向上を確かなものにしていきます。
最新技術を人につないで、新たな感動をかたちに
当社は、2024年にパーパスを発表しましたが、策定の際にこだわったのは「技術の進化」と「人」をつなぐ、というフレーズでした。創業から80年近く、これまでつないできたものは、「技術の進化」と「車」でしたが、それを今は「人」とつないで感動をかたちにしていく、つまり自分たちの技術をダイレクトに「人」に伝えることを明言しました。先にお話しした採用活動での変化にも表れているように、私たちの志は、確実に社会に伝わりはじめたと感じています。
パーパス策定によって生まれた求心力と当社の「挑戦する文化」を推進力に、「人が手掛けないことこそやる」精神で価値創造に挑んでいきます。ステークホルダーの皆さまとともに東海理化を成長させるべく、経営に尽力します。引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。