トップメッセージ

変化を成長の機会に
未来をともに創る力で、
新たな価値創造への挑戦
社長執行役員
環境変化に追随する準備と決断
2024年度を振り返りますと、激動する事業環境の中にあって、当社は売上高が6,176億円(前期比0.9%減)、営業利益は過去最高の354億円(同23.0%増)となり、2022年に策定した中期経営計画(以下、前中計)で掲げた目標値を1年前倒しで達成することができました。これは、将来に向けた積極的な投資を継続しながらの成果であり、当社の「稼ぐ力」が着実に向上していることを示すものと捉えています。
自動車業界を取り巻く環境は、まさに「最終コーナーを回るまで誰が勝つか分からない」状況です。EVシフトの動向、地政学的リスク、政治的要因など、予測困難な変化が次々と起こっています。しかし、私たちは「予想は当たらない」ことを前提として、変化に迅速に対応できる体制を構築してきました。こうした柔軟性と即応力こそが、私たちの競争力の源泉となっています。
2024年度の成果と新たな展開
2024年度の業績向上には、いくつかの重要な要因があります。まず、円安効果により売上・利益が押し上げられた外的要因がある一方で、収益改革本部の設置による原価低減活動の成果、そして将来への投資と並行した収益性向上という内的要因も大きく寄与しました。
また、売上減少を見込んでいたスイッチ類の受注が底堅く推移したことも業績を後押ししました。過去、市場では、タッチパネルスイッチへの移行が生まれ、他社ではスイッチ製造から撤退する企業も出始め、当社でも前中計で800億円程度の売上減少を見込みました。ところがタッチパネルスイッチが増えるにしたがい、操作性や安全性に疑問がもたれ、欧州では、自動車の安全性能評価を手掛けるEuro NCAP(European New Car Assessment Programme、欧州新車評価プログラム)が、2026年よりダイレクト操作ができるかを評価基準に採用する方針が示されました。これにより機能ごとに物理スイッチとタッチパネルスイッチを使い分ける流れが定着したため、スイッチ類の需要は想定よりも減少しませんでした。他社が撤退する中、東海理化は「人が手掛けないことこそやる」という創業の精神により、事業を継続してきた結果、想定外の受注にもつながり、売上の減少幅は小さく留まりました。
事業展開の面では、2024年度は、新たな生産拠点も稼働しました。株式会社東海理化トウホク(秋田県横手市)は、東北地方における初めての拠点で、主要取引先であるトヨタ自動車の付近に生産拠点があり、顧客ニーズに迅速に対応できる体制を整えました。この拠点は、私たちの地域貢献の象徴でもあり、地元の雇用創出や地域課題解決に向けたプロジェクト活動を通じて、地域社会との絆を深めていきます。
また、今後の経済・自動車市場の成長が見込まれているインドの北部工場は、トップシェアを誇るマルチスズキをはじめ多くの自動車メーカーとの取引の拡大をめざしています。当社として初めてトヨタ自動車以外のお客さまを主要対象とした工場を稼働し、単一企業向けの製造体質脱却という戦略的方向性を具現化しています。このように、グローバルな視点での事業展開が、今後の当社の成長を支える重要な要素になると考えています。
技術面では、「Hidden Light Effect(ヒドゥンライトエフェクト)」という画期的な技術を開発し、お客さまから高い評価をいただいています。これは透過加飾技術により、通常時は見えないスイッチがエンジン始動時に浮かび上がるというもので、樹脂や金属、皮などのパネルに搭載できます。シンプルで洗練された高級感のある車室を演出するタッチパネルスイッチとして新しい価値を提供しています。この技術革新が、私たちのブランド価値を高め、顧客満足度の向上に寄与することを期待しています。さらに、自動車メーカーのアルミホイールに装着する樹脂製キャップ「WFO®(ホイールフルオーナメント)」を開発し、トヨタ自動車のクラウンエステートを皮切りに展開が始まっています。自動車メーカーは、アルミホイールをクルマの意匠として重視しており、車種ごとにさまざまなアルミホイールがあるため品番数や必要なアルミ材の増加が課題でした。「WFO®」は、新開発塗料により、高輝度の切削アルミホイールの金属質感を実現するだけでなく、アルミホイールの軽量化によって車両燃費/電費(空力性能)の向上にも寄与します。さらに、キャップ型の「WFO®」は、アルミホイールを共通化することで多様な意匠バリエーションを実現しながら、品番種類数削減、工場省スペース化を可能にした点も評価されており、革新的なソリューションとして期待されています。
未来を担う主役たちが策定した新中期経営計画「TRV2030」
2025年からスタートした新中期経営計画「Tokai Rika Vision 2030(TRV2030)」は、従来の延長線上の計画とは根本的に異なるアプローチで策定しました。社長である私と副社長の佐藤はあえて入らず、役員、中堅社員、若手社員からメンバーを募り、3つのタスクフォースチームを結成、当社のパーパス、ビジョン、バリューを念頭に置いたうえで10年後のめざす姿を描きました。そして、そこからバックキャストしてつくり上げたのが「TRV2030」です。未来を担う人たちが主役となって会社のこれからを決める、「自分たちの未来を自分たちで創る」という企業文化の変革そのものを象徴しています。メンバーからは、「自分のテリトリー外に視野を広げ会社の未来像を議論した」「未来を描きながら、どんなモノ・コトを生み出し、ビジネスにしていくかを考えた」などの声が寄せられ、役員も自動車メーカーがモビリティカンパニーへとフルモデルチェンジする中、まずは自分たちが変わり、その姿を社員一人ひとりに見せていかなければならないと心を新たにしていました。このプロセスを通じて、当社が進むべき道筋を見いだせたのではないかと思います。
この取り組みの背景には、「人が手掛けないことこそやる」という創業者の精神があります。創業から77年間、当社は常に新しい挑戦を続けてきましたが、安定した事業基盤のうえにあぐらをかいてしまう危険性も感じていました。変化の激しい時代に対応するためには、創業者の精神を再定義し、社員一人ひとりが主体性をもち、変革の担い手となることが不可欠です。そのための指針となるのが、パーパスです。
パーパス「『技術の進化』と『人』をつなぎ、感動をかたちに」も、従来の「技術の進化」と「クルマ」をつなぐという発想から、より直接的に人々の生活に価値を提供するという方向へと進化させました。この変化は、当社が自動車部品メーカーの枠を超えて、人々の暮らしを豊かにする企業への変貌をめざし、私たちの技術が、生活の質を向上させる手助けとなるのをめざしていることを表しています。これについては、すでに新領域の製品で具現化されているものがあり、その一つがeスポーツ向けのゲーミングギアブランドとして立ち上げた「ZENAIM(ゼンエイム)」です。既存技術を活かした製品をPCゲーム市場に投入しており、ゲーミングキーボード「ZENAIM KEYBOARD」が好評です。あえて東海理化という社名を前面に押し出すことはせず、「ZENAIM」というブランドでこれまで市場になかった製品を提供し、消費者の方々に認知いただいています。キーボードを購入されたお客さまは、唯一、保証書に記載された社名で当社を知っていただく形になるのですが、「ZENAIM」ブランドを通して技術を評価いただき、ひいては東海理化がご提供する価値を広く消費者の方々に感じていただきたいと考えています。
「TRV2030」では、売上高7,000億円、営業利益率7%、ROE10%という数値目標を掲げていますが、これをM&Aによる規模拡大ではなく、筋肉質な企業体質の構築を通じて達成をめざします。特に営業利益490億円(営業利益率7%)の確保は、株主還元、社員への還元、そして将来への投資を継続的に実行するために必要な水準として設定しました。これらの目標は、全てのステークホルダーへの責任を果たしながら、持続的成長を実現するための指標となります。これを実現するために、全社員が一丸となって取り組むことが重要です。
成長戦略の進化 ~共創による価値創造~
「TRV2030」では、従来の4象限成長戦略に市場成長性の軸を追加し、より戦略的な事業ポートフォリオマネジメントの実現をめざします。この成長戦略の核心は、社内外のさまざまなステークホルダーとの「共創」にあります。新しいビジネスチャンスや成長領域の創出、そして組織全体のイノベーション促進を目的に、従来の組織の枠組みにとらわれない異なるスキル・知識・視点をもつメンバーで「共創型チーム」を構成しています。部門間の壁をなくし、一定の権限移譲を行うことで、迅速で自律的な意思決定と高い生産性を可能にします。すでに新領域の製品として、子育て世代の安心・安全な運転をサポートする製品「FamiCa(ファミカ)」や先にご紹介したゲーミングキーボード「ZENAIM KEYBOARD」が誕生しています。これらの新製品は、私たちの挑戦を象徴するものです。
社外との共創では、IoTやFinTechを活用した金融サービスを金融機関などに提供しているGlobal Mobility Service株式会社との協業により、当社の社用車管理システム「Bqey(ビーキー)」に追加搭載できるアルコール検知機能付きエンジン始動システムの開発が象徴的な成功事例です。飲酒運転防止という社会課題の解決に貢献するとともに、当社の新たな事業領域を開拓しています。このように、自社だけでは実現できない価値創造のために、積極的に外部パートナーとの連携を深めています。
2027年の竣工をめざし建設が進む新技術開発棟では、設計から運営方針まで、未来を担う若手・中堅社員が主体となって決定しています。これは単なる施設建設ではなく、新しい働き方、新しい発想を生み出すためのしくみづくりです。従来の上意下達による意思決定から、現場主導の迅速な判断と実行への転換を図っています。この新技術開発棟は、当社の未来を支える重要な拠点となるでしょう。
経営基盤の強化
成長戦略を実行し成果を出すため、「TRV2030」でも経営基盤の強化に取り組み、重点課題として「品質」「DX(TRX)」「サプライチェーン改革」の3つを掲げています。過去発生した品質不良を反省し、品質を担当する人財の育成を強化するとともにDXの導入で人のみに依存しないしくみづくりを進めます。エンジニアリングチェーンとサプライチェーンにおいてデータを活用し業務を変革して、仕事の仕方を変えていきます。これにより、私たちのビジネスの効率性を高め、競争力を強化します。
これまで自動車産業は、一つの企業が多くのパートナー企業とサプライチェーンを構築し、発展してきた過去があります。モノづくりにおいて日本の中小企業は、特定の業務に専念している専業企業や一つの技術・工程に特化している企業が多数を占めています。現在それは、サプライチェーンにおいて非効率や競争力の低下につながり、関わる企業にとってメリットを得にくくなっている実情があります。私たちは、この課題を克服するために、協力会社との連携を強化し、持続可能なビジネスモデルをともに築いていきます。
私は、当社が持続可能な企業として発展していくには、中小規模の製造業を中心とした協力会社がモノづくりを持続できるかたちにする必要があると考えています。それぞれの協力会社が、複数の工程を担える企業へと変化していただくことで、日本式の中小企業の未来、日本の製造業全体の競争力向上をめざします。現在、各協力会社の後継者候補を中心に有志で構成された組織と交流をもち、持続可能なビジネスモデルの構築に取り組んでいます。中長期目線でサプライチェーン改革を捉え、足元では必要な技術の共有やDXを活用したデータ共有などで協力会社の事業をサポートし、サプライチェーン全体の最適化を図っていきます。
サステナビリティ経営の推進
サステナビリティ経営には、土台としてパーパス、ビジョンの浸透、人財やESGへの取り組みが必要です。環境についてはカーボンニュートラル戦略2030を策定し、本社・本社工場において2030年を目標にカーボンニュートラルの実現に挑戦、グローバル目標としては2050年の実現をめざしています。「自分たちが汚した分は自分たちで責任を取る」という基本姿勢で取り組み、カーボン・クレジットや再エネ電力証書にはじめから頼るのではなく、自らの資金を使い、製品製造におけるライフサイクル全体でやれる対策を行う。これが、環境課題に対して私たちが社会的責任を果たしていく際の歩み方です。
人財については、「TRV2030」の原動力であり、人的資本経営に注力しています。健康経営と変革をリードする人財の育成に取り組んでいますが、人的資本経営を推進するうえで基本となるのは、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)です。現在、ダイバーシティ推進室が施策を進めています。例えば、既存の生産設備など職場環境の多くは、健常な男性が使用することを前提につくられています。運動能力の差異を考慮せず、同じ環境を一律に提供するだけでは、女性や障がいのある社員にとって不利な条件となる可能性があります。また、育児期間中の社員に公平な機会と環境を確保するためには、これまで以上に柔軟な働き方を可能にするしくみが求められます。今後は、工場設備の改善も含め社員が公平に働ける環境づくりが必要になっていくのは間違いありません。この取り組みが、私たちの企業文化をより豊かにし、多様性を尊重する組織へと導くことを期待しています。
グローバルでは、米国を中心にDE&I政策が大きな転換点を迎えていますが、日本は同じ土壌で議論すべきではありません。欧米と比較しそもそも多様な人財の活用が限定的な日本において、国も企業もやるべきことは多いはずです。当社としては、「TRV2030」でめざす挑戦と変革を実現する人財を確保するためDE&Iを一層推進し、人的資本経営を進展させ、経営基盤を強固なものにしていきます。
また、海外拠点における人財の活用については、現地の文化に合わせたマネジメントを強化したいと考え、トップに現地人財を登用する海外子会社を増やしていきます。日本人駐在員による技術指導やマネジメントではなく、現地の人財力を活用し、現地のやりかたを学ぶくらいの意識を当社はもつべきだと思っています。一方、海外子会社には東海理化のパーパス・ビジョンをしっかりと伝え、グループの一員として責任を果たす企業となるよう、グローバルガバナンスを実行していきます。
資本戦略
資本戦略においては、2030年度にROE10%の達成を目標に掲げ、事業戦略と資本戦略を両輪に、全てのステークホルダーの皆さまに配慮した経営を推進していきます。
資本効率の向上を通じて創出された資金は、持続的成長に向けた設備投資・未来創造投資、将来の会社を支える人への投資、株主還元の拡充と戦略的に配分していきます。
2025年度から2027年度までの3年間は、2030年に向けた成長投資として950億円以上の投資を実行していきます。また株主還元については、長期的な視点をもつ株主の皆さまとの信頼関係を重視し、持続的な企業価値の向上による安定的な配当の継続を基本方針としつつ、3年間で550億円規模の還元を想定しています。これらの投資は、当社の競争力強化と中長期的な企業価値向上を支える重要な施策です。
2024年度末現在キャッシュとして1,000億円を保有していますが、これらの活動の結果、2027年度末には600億円程度に圧縮する見通しです。このように、私たちは持続可能な成長を実現し、その成果を広くステークホルダーの皆さまに還元することで、期待に応えていきます。
企業価値向上に向けて
企業価値向上に向けた私の役割は、当社の認知度向上と企業文化の変革推進にあると考えています。BtoB企業の宿命として知名度の低さがありますが、技術力の高さや社会貢献活動を積極的に発信し、ステークホルダーの皆さまに当社の価値を理解していただくことが重要です。愛知駅伝への協賛や車いすテニス男子シングルスの世界ランキング1位(2025年8月現在)で、2024年パリパラリンピックで金メダルを獲得した当社所属の小田凱人選手の活躍などを通じ、当社の「挑戦する企業文化」を社会に発信するなどしていますが、これらは社員のモチベーション向上にも寄与しています。
変化の激しい時代だからこそ、私たちは「人が手掛けないことこそやる」という創業者精神に立ち返り、新たな価値創造に挑戦し続けます。「TRV2030」は、単なる事業計画ではなく、当社がめざすべき企業像への変革プログラムです。77年間培ってきた当社の強みを活かしながら、変化への対応力を高めるための企業文化変革を推進します。「守り」から「攻め」への意識転換、階層を超えた対話の促進、失敗を恐れない挑戦の風土づくりなど、社員一人ひとりが変革の担い手となれるよう環境整備につとめます。この変革が、私たちの未来をより明るいものにすることを信じています。
全てのステークホルダーの皆さまとともに、持続可能な社会の実現と企業価値の向上をめざしていきます。変化を機会に変える力、未来をともに創る力で、東海理化は新たなステージへと歩みを進めます。引き続きのご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。