トップメッセージ

創業の精神に立ち戻り、
世の中に必要な、人が手掛けないことに挑戦し、
人に喜んでもらえる製品をつくり続けます。
代表取締役社長
社長執行役員

創業の精神に基づく、東海理化のパーパス・ビジョン・バリュー

2020年に社長に就任したときに発表したのが、このままではいけない、とにかく会社を変えようというメッセージを込めた「がけっぷち宣言」です。翌2021年には、製品別、地域別に何をどう変えていくかのシナリオを描き、次ステップとして2022年に中期経営計画を策定し、2030年に売上6,000億円という目標を掲げました。そのような経緯を経て改めて浮き上がってきたのが、10年後に東海理化はどういう姿になっているのかという視点です。ここには敢えて私は入らず、バックキャスティング的に、今年、来年、再来年何をやるのか、自分たちで描いてほしいと指示しました。そこで新たにできあがったのが、今年度発表したパーパス・ビジョン・バリューです。
パーパスは、「世の中に必要なことであれば、人が手掛けないことこそやる」という創業の精神を引き継ぎながら、「人とクルマの間に生まれる新たな感動をかたちに」という経営テーマを大切にし、“人”と“感動”というワードはそのまま残して、「『技術の進化』と『人』をつなぎ、感動をかたちに」としました。ビジョンについては、当社の社名の由来ともなっている「物理・化学・電気・機械」何でもできる会社をめざした当社のDNAを拡大し、人や社会、環境に役立つ商品やサービスを提供するという決意を示したものです。そしてパーパス・ビジョンを実現するためのバリューとして、初代社長をはじめとする当社の諸先輩方が残してくださった大切な言葉をもとに作成した、6つの「考動宣言」を位置付けました。
今回パーパス・ビジョン・バリューを改めて整理、作成したことで、未来に向けて、より良い社会の実現と、東海理化のさらなる成長の両立をめざしていくという強い想いを社内外に示すことができました。次はそれをどうやって浸透させていくかです。実感として思うことは、トップ自らが毎回口に出すようになると、伝わるスピードがとても速い、ということです。そもそもスローガンはトップが常に口に出して言い続けることで実現していくものです。徹底して口にして具体的なものにしていかなければ、口先だけで終わってしまうことは痛いほど経験していますから、とにかくしつこいくらいに伝え続けているところです。それも上っ面の理解でなくて腹落ちして理解することが大切です。その点は、動画やイラストなどで、背景や想いを伝えるために色々と工夫してくれています。今回13年ぶりに会社のスローガンも刷新し「『健康・考動・笑顔』で未来を創ろう!!」としました。健康や笑顔という、これまでになかった言葉を使った、パーパス・ビジョン・バリューの流れを踏まえたものになっています。

2024年5月に策定された「パーパス/ビジョン/バリュー」

東海理化を取り巻く環境認識

自動車業界を取り巻く環境は大変厳しく、アメリカなどでも自動車関連ビジネスをスピンアウトする企業も出てきています。それで何が起きているかというと、当社に製造できないかと逆に相談がくるケースも出てきていて、厳しい中耐えて食らいついている企業の強みが生きていたりもします。市場全体は縮小傾向にありますが、その一方で、撤退企業の仕事を当社が新たに引き継ぐというチャンスもある、この両方が起こっている最中にあります。
業界の大きな流れとしてはEVに向かっていますが、当然ながらすぐに突然切替わるほど簡単なものではありません。EVが加速するというより、そのドラスティックなチェンジに向けてどのように進んでいくのか、そのステップを今一度考え直そうとしているのが現在のステージです。当社は自動車のEV化による影響をそれほど受けないと考えていたのですが、EVとともに台頭してきた新興メーカーがいわゆる車のインテリアというものを全て変えてきました。当社の主力製品であるスイッチを必要とせず、ディスプレイの中に色々なものが入り込む、いわゆるソフトスイッチ化の流れです。製品が変わるだけならどうにかして対応が可能ですが、製品自体がなくなってしまうと対応のしようがない、これが一番の恐怖です。
ただ、オール・オア・ナッシングでいくわけではなくて、実際に操作した方がいいものもあるはずです。あくまでもお客さま思考で製品と製品の付く位置は変わっていくので、当社としてはやはり、お客さまとしっかりと話をしながらお客さまの望む製品をつくり続けていくことが大事だと考えています。
今後は間違いなく、製品単独では存在できない時代です。シートベルトであればシートをつくっている企業と、内装であれば他の内装をつくっている企業と共同で企画開発をするといったようなことに取り組んでいく必要があります。

2023年度の業績、経営の振り返りと中期経営計画の進捗

足元の業績として、当社の2023年度の営業利益は288億円で着地いたしました。アフターコロナでOEM各社の操業が大きく上がってきたことに加えて、為替の影響もプラスしたことが背景にありますが、固定費低減などにより利益体質を強化してきたことの成果が現れたと考えています。また、2023年度は2022年度に引き続き戦略的な投資を進めました。さらに、2023年は創立75周年の記念配当としてプラス5円の配当とさせていただきました。2024年度から配当方針を見直し、より株主の皆さまに還元できるようにしました。
喫緊の課題である東海理化単独の黒字化ですが、これも2022年度から進めてきた固定費低減が着実に進んでいることで黒字化が見えてきました。ここから2年が勝負となります。
中期経営計画で2025年に目標とする売上、営業利益に対する進捗も、突然円高が進み1ドル100円などにならない限り、多少のプラスマイナスはあるかもしれませんが達成できる見込みです。成長投資についても、2022年度300億円、2023年度に未来創造投資という形で200億円、そのうち、新しいワークベースや開発棟の建築など、計画通りに進めています。その一方で企業価値の向上については、PBRを含め未だ課題で、今まさに経営の方針を根本から切替えていかなくてはいけない大きな転換期にきています。ただし、どこかの会社を買うといった小手先の手法ではまったく意味がないと考えます。やるべきことは、資本の構造を変えていくということだと思います。
また、中期経営計画の成長戦略として描いたビジネスポートフォリオ(縦軸を既存技術、新技術、横軸を既存領域、新領域とした4象限)で見ると、6,000億円のうち1,000億円を稼ぐ予定の新領域ではまだ取り組みの継続中です。順当に売上を稼いでいる多くは依然として既存事業領域で、これは当初想定していたより落ち込みが緩やかであったことから結果として売上を押し上げているだけで、6,000億円の内訳では、やはり新領域への取り組みが弱いのが現状です。特に自動車分野の新領域については、もっと積極的に取りにいかねばならないという危機感をもっています。
とはいえ、新領域の開拓が簡単ではないことは当然のことです。世の中に出てからしか勝算は読めないと思っていますし、勉強代だと考えているところもあります。ただ、単なる勉強代とするにはあまりに高過ぎますから、少なくともブレークイーブンにはもっていきたいと思っています。もしくは価値を認めてもらうことができれば、製品ではなくてそのビジネスそのものを買ってくれる人がいるかもしれません。つまりスタートアップ企業の考え方ですね。新領域として取り組んでいる「BAMBOO+®」の実行組織名に「カンパニー」という名前を付けているのは、そういうねらいもあるのです。もっと挑戦をしてほしいと思っています。

東海理化の成長戦略

人に喜んでもらえるオンリーワンをつくる

これまで東海理化の顔ともいえる製品であったスイッチの需要は、今後なくなっていくことは明らかです。それに代わる当社の代表商品として今、シートベルトとシフトバイワイヤシフターがありますが、2030年に向けた計画をつくるうえでは、新領域の、特に自動車の中の新領域をもっともっと取りにいかなくてはなりません。では、新領域でどのような技術で戦っていくのか。
今強く思っていることは、特に、自動車の中の新領域では、想いが伝わる商品をつくりたいということです。例えば、電流センサー一つとっても、それが東海理化の製品であることをお客さまは知りません。当社はこれまでずっとOEMから仕様をもらい、それに応えるものをつくるビジネスに何十年も慣れてきたので、どうしても待ちの姿勢中心でやってきた歴史があります。ただこれからは、自分たちで提案できるものにしていきたい。とりわけ、社会問題を解決できる製品としてユーザーに直接伝えられるものをつくっていきたいと思うのです。何十億、何百億といった大きな売上にはならなくても、大きな価値のある商品を出すことに重みを置くということです。長年当たり前だった「待ち」の姿勢から、自分たちで提案できるものに変えていこうというとき、一番わかりやすい動機付けは「社会に直接役立つもの」です。
最も注目しているのが、事故をゼロにする製品で、いわゆるトラックの車輪脱落予兆検知システム「天護風雷」については、まもなく試験的に市場に出させてもらえるところまできています。デジタルキーやセンシング技術を使って子どもの置き去りを検知する製品もあり、こちらについてももっとダイレクトにお客さまに訴求できる製品にしていきたいと考えています。
オンリーワンの製品をつくろうということも常々言っていますが、オンリーワンは何も、表に見えるものである必要はありません。当社には、電流センサーや位置センサーなどの分野のノウハウがあり、他社がつくることができないものをつくっていますし、他社がもっていてもより精度の高いものにする、過酷な環境でも性能が変わらないものにするといったことにもチャレンジしてもらっているところです。
大事なのは「これって世の中にまだないのでは?」「これがあったら喜ばれるのでは?」という想いです。「頼まれたからつくろう」ではなくて、「これがあれば私がうれしい」と思えるものをつくらなければいけません。ただし、技術者の性でしょうか、新しい技術を開発した時点で満足しがちですが、人に使ってもらわなければまったく意味がない。ヒットしなければオンリーワンとして扱ってはもらえないからです。開発したことではなく、実際に人に喜んでもらうことで自分も喜びを感じる開発者にならなければいけないと思います。

アジャイル開発をめざした研究開発体制への変革

新領域にチャレンジするには、これまでとは違うまったく新しい開発の在り方が求められます。つまり、研究、開発に関わる組織体制自体を変えていく必要があります。そこでまず行ったのが、これまでの事業部別の組織から製品別の組織への変革です。そして今挑戦しようとしているのが、従来型のピラミッド型組織からアメーバのような共創型組織に変えることです。これまでであれば、製品をつくってから初めて議論していたことを、設計、評価、生産技術、調達、営業といった役割の各人が早い段階から関わり合って研究開発を進めていく、いわゆるアジャイル開発をめざした体制へと変革させます。
そうなると、今度は物理的にも近くにいて対話できる環境が必要になります。そのトライアルとして、昨年、新しい働き方の実証エリア「クロス_base」をつくり、よりオープンな環境で社員の交流を促し、イノベーションのきっかけにしようという試みをスタートしました。さらに、本社敷地内に新技術開発棟の建設を決定し、2027年に稼働する予定で動き始めています。この新技術開発棟を旗印にしながら、現在の開発棟やモノづくりセンターも含めて再構築し、さまざまな部署が早い段階から集まり、即断・即決・即実行できる共創型の組織をめざす構想を描いています。

共創とモノづくりを融合する「新技術開発棟」(2027年竣工予定)

会社をもっと好きになってほしい

これらの改革を進めていくには、働いてくれる社員の皆さんがやる気になってくれる環境をつくることが必要です。つまりは社員の皆さんにもっと会社のことを好きになってほしいのです。
そのために「未来創造Work Base構築」として、2022年から各オフィスのリノベーションを進めてきました。具体的には、机や椅子などの一新、ロビーやトイレ、リフレッシュコーナーやミーティングスペースなどの改修を行い、今の時代に合った働きやすい職場空間にリノベーションしました。これまで大学生の就活生に社内を案内したときにも、残念ながらネガティブなイメージをもたれたこともありました。工場の中も、部品を台車で運んでいるようなやりかたではだめですし、AIやロボットを活用しようと言っておきながら、ロボットがモノを運ぶだけではそもそも新技術の開発などできません。そういう意味でも、働く環境を整えることは大変重要です。
色々なご意見があるとは思いますが、工場をつくって以降、質実剛健をモットーにやってきました。古いものを使い続けることが美学であることもたしかですが、これからの若い世代がそこで本当に気持ちよく仕事ができるだろうか?という視点で考えたとき、やはり改善する必要があると考えました。諸先輩方が残してくれた財産をここは素直に使わせていただこうと決断した次第です。
人的資本経営という視点で、もう一つ注力しているのが、教育機会の拡大です。一人ひとりが働きがいや成長を実感できるよう、eラーニングによる教育やソフトウェア技術者育成のためのリスキリング、社外チャレンジなどを促しながら、国家資格取得者には報酬を与えるなどのしくみも用意しています。また、これまで女性社員の教育の機会が少なかった事実を素直に反省し、あらゆる層の社員が性別に区別なく平等に教育の機会を得られるようにしている他、異業種交流などを通じて他社見学の機会があることなども大いに刺激になっているようです。他社に出向いて新たな気づきを得ることで「私たちもこんなことをやってみたらどう?」と提案をしてくれるなど、前向きな変化が見られつつあります。色々なところで動き始めたこのような渦をどうやって大きくするかはマネジメントの役割になりますから、中間マネジメント職の皆さんに活力を与えることができれば、小が中に、中が大にとどんどん渦が大きくなっていくのではないかと期待しているところです。
将来に不安を感じながら仕事をしているのも好ましくありません。当社で働いていれば社外にも学びの場がある、新たな学びを続けることで自分がどんどん成長していけるというサイクルが回っていけば、きっと社員に安心感を与えられるはずです。東海理化には教育の機会が十分にある、つまり人にお金を投資していると評価してもらうことももちろん大事ですが、本当に期待するのは、「最近会社面白いな」「東海理化でずっと働いていたいな」とシンプルに思ってもらえるようになることです。それが一番いいことだと思っています。

成長戦略実現の先にある、東海理化の姿

今回パーパスを策定しましたが、何のために会社があるのかといえば、それは社員のためと、周りの人や地域社会のためであると考えています。社員が安心して楽しんで働いてくれる会社であり、地域やお客さまから頼ってもらえる会社でありたい。そのためには当然ながら、会社を存続させて利益を稼ぎ続けなければなりません。わかっていることは、この先既存のビジネスはシュリンクしていくということ。ゼロにはならない部分をしっかり守りながらお客さまに届けること、そしてクルマの世界、クルマ以外の世界で新しいビジネスを開拓していく必要があります。
「脱自動車」という言葉を出しているように、いつまでもクルマに頼っていてはいけないし、脱!今までの東海理化でなければいけませんし、クルマ以外のビジネスもしっかりと対等にやれる会社にしていかなければなりません。ゲーミングキーボードなどはその最たる例ですが、何でもやる会社という言い方も一つあるかもしれません。
そういう意味で、これからの10年後を見据えてパーパスからバックキャスティングしていく中では、もう一つ柱をつくりたいのです。今までは何となく自動車会社に指示されながら柱ができてきました。今度は、自動車以外のところで、自分たちの手で自分たちの会社の柱をつくっていきます。現時点ではまだ、柱はこれですと言い切れるものがないですが、この柱をみんなでつくり上げようとしているところです。
そのためには、やはり組織も変わらなければいけなくて、アメーバ的な共創型に変えていかなくてはいけないですし、トップの許可をもらうまでいつまでも一歩たりとも前に進めない組織では遅すぎます。だめなものはいつの段階でも止めることができますから、そこは心配しないで即断、即決、即実行できる組織をつくり上げていきます。
最後に伝えたいのは、社員の幸せが私の幸せであるということです。「世のため人のため」という言葉がありますが、本当に人に喜んでもらってこそです。そして、社員の幸せを追求することがパーパスの実現につながっていくものと思っています。

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