社外取締役×社長・副社長対談

「未来は自分たちでつくる」

脱・自動車に向けた新事業への挑戦文化を育み、
新中期経営計画「TRV2030」の実行を支えます

外部の視点から東海理化を支える社外取締役3名と執行側の二之夕社長、佐藤副社長が対談し、当社のコーポレート・ガバナンスの在り方や新中期経営計画「TRV2030」への想い、新事業への挑戦文化、今後の課題や期待などについて意見を伺いました。

対談メンバー

二之夕 裕美
代表取締役社長
社長執行役員

佐藤 雅彦
代表取締役 副社長執行役員

藤岡 圭
社外取締役

宮間 三奈子
社外取締役

安部 和志
社外取締役

当社のコーポレート・ガバナンスについて

直近5年間の取締役会議題の内訳を見ると、ガバナンスや戦略に関する議題が大きく増加しています。当社のコーポレート・ガバナンスや取締役会の在り方の変化について、どのように感じていらっしゃいますか。

宮間:かつての取締役会は数字の確認や形式的な報告が中心でしたが、現在は戦略や新規事業に関する議論へとシフトし、ガバナンスの中身が大きく変わってきたと実感しています。次世代商品や新事業に関する議題が多く上がっているのも、「新しい東海理化をめざす」という経営陣のメッセージが継続的に発信されてきた成果です。昨年の統合レポート取材で「東海理化は何をつくっている会社なのか、と問われる会社になっていると面白い」と申し上げましたが、その兆しを実際に感じられるようになってきていると思います。

安部:社外取締役に就任して1年ですが、この間に大きな進化を感じています。特に中期経営計画の策定において、4象限のフレームワークを使って議論を重ね2030年の方向性を明確にできたことが大きく、現在はその目標に向けた実行段階に入っています。新しいことに挑戦するときは誰でも戸惑いますが、進むべき方向がはっきりしているので確実に実行できるものと思っています。

藤岡:就任から10年になりますが、2022年に初めて中期経営計画を策定し、2024年に新たにパーパス・ビジョン・バリューを掲げたことでようやく1本の背骨が通りました。そこからのジャンプアップが際立っており、2回目の経営計画でここまで飛躍できる企業はめずらしいと思います。そして今、計画を現場に浸透させ、実行スピードを上げることに経営陣が注力している点についても高く評価しています。社員全員が戦略を自分事として受け止められるように、企業風土そのものを変えていこうとさまざまなプロモーションも進めておられます。これは大きな前進だと感じますね。

多才で多様な経験をもつ
社外取締役を迎えたことで、
取締役会は戦略を議論する場へと
進化しました

二之夕:当社は長らく、トヨタの車づくりという限定的な世界で仕事をしてきました。正直に言えば、これまで外の世界をほとんど見ずにやってきたと思います。そこから大きく舵を切り、多才で多様な経験をもつ社外取締役を迎えたことで、取締役会は表面的な報告の場から戦略を議論する場へと進化しました。さらに異業種の方たちと実務レベルでも交流を始めており、内向き志向の殻をようやく破りつつあると実感しています。

新中期経営計画「TRV2030」策定の評価と実行に向けて

新たな中期経営計画「TRV2030」の策定プロセスの振り返りと、計画の実行に向けたご意見をお聞かせください。

藤岡:東海理化にとって2回目となった今回の中期経営計画の策定にあたっては、中堅・若手社員も参加し、10年後のありたい姿を議論することから始めました。これにより、策定のプロセスは従来のトップダウン型からボトムアップ型へと大きく変化しました。これほど多くの社員を巻き込んで計画を策定する会社は、そうないのではないでしょうか。パーパスから落とし込んで整理され、社員が主体的に考えて未来を描くプロセスそのものが、計画をつくり上げること以上に重要だと思っています。こうした土壌が整ったことは大きな進化です。

二之夕:2022年、崖っぷちに立っていた当社が初めて中期経営計画を策定し、そこから3年間実行してきました。さらにパーパス・ビジョン・バリューを掲げる過程で、社員の意識にも変化が生まれてきたと感じています。「東海理化はこの先どこをめざすのか」という問いを自らもち、引かれたレールの上を行くのではなく「自分たちの未来は自分たちでつくろう」という意識をもつ社員も増えてきています。また、やりたい仕事を実現しようと、新規事業に自発的に挑戦する社員も現れ始めました。今後はその比率が高まり、保守的な社員にも「自分も変わらなければ」という意識改革が広がることを期待しています。

安部:取締役会でも中堅・若手社員の考えを聞く機会が何度もありました。10年先を見据えて何をすべきなのか皆さん一生懸命頭を使って考えておられる、その真剣さは想像を超えるものでした。ここからの実行フェーズが正念場ですが、あれだけ議論を尽くしてつくり上げたプランですから、安心して見守ることができます。私の役割は、その挑戦を支え、必要なサポートを提供することだと考えています。

宮間:私が東海理化に参画した3年前には、すでに最初の中期経営計画ができ上がっていました。しかし今回の2回目の計画は、中堅・若手社員が「自分たちの会社は将来どうありたいのか」を真剣に考え、本当の意味でボトムアップ型で策定されたものです。これは東海理化にとって大きな変化であり、今後ますます期待が高まると感じています。そして、新中期経営計画の策定プロセスに多くの社員が参画したことは、その後の浸透力を高めるうえで大きな意味を持つと思います。ただし、社会の変化スピードは非常に速いため、計画が当初の想定とずれていく可能性もあります。しっかりと支えながらも、柔軟に変化へ対応できるようサポートしていきたいと考えています。

二之夕:人事部門もようやく人事施策の必要性を感じ、「自分事」として具体的に動き始めました。ただ、取り組みを始めただけでは不十分であり、最後までやりきらなければ意味がありません。当社はやりきることを苦手としてきた部分がありますが、今回は必ずやりきるという強い覚悟をもっています。

新領域での挑戦成果の具現化に向けて

脱・自動車に向けた新領域、新技術への挑戦について、どのように感じておられますか?

宮間:東海理化に来て最初に感じたのは、長年「受注産業」として発展してきた点が、私が働く大日本印刷と似ているということです。取引先さまであるお客さまから課題を受け、それに対応する技術を開発しながら成長してきた企業であるため、どうしても取引先さまを通じて社会を見ており、社会を直接見る力が十分ではないと感じました。ところが最近では、キーボードをはじめとする新規事業のアイデアが生まれており、「自動車以外の分野で事業を展開していく」という二之夕社長の強いメッセージが確実に浸透してきていると実感しています。

安部:ソニーでの経験から、東海理化との大きな違いをBtoCとBtoBの構造に見ています。私自身、最初はこの違いをとても新鮮に感じたと同時に、BtoB特有のお客さまとの強固な信頼関係、品質へのこだわりなどの面で多くの学びを得ています。BtoCのビジネスでは、消費者の嗜好やトレンドが激しく変化しますから、そのスピードを先取りして挑戦し続けなければ市場に残れません。常に世の中の変化の中で走り続ける宿命にあります。一方、BtoBのビジネスは、取引先との信頼関係が強固で盤石であり、品質へのこだわりも強みです。ただその反面、どうしても外部との接点が限られてしまう。こうした構造の違いがある中で、現状に甘んじず、「BtoBの強みを大切にしながらBtoC領域に挑戦する」という思い切った戦略を掲げたことは非常に意義深いと考えています。長年BtoCの難しさを経験してきた立場からすると、大いに応援したい挑戦です。

「今やらなければ手遅れになる」
という危機感があったからこそ、
今回の中期経営計画へと
つながりました

佐藤:心強いお言葉です。改めて振り返ると、「崖っぷち」という社長の強い言葉がなければ、脱・自動車への挑戦は本格化しなかったと思います。「今やらなければ手遅れになる」という危機感があったからこそ、今回の中期経営計画へとつながりました。自動車以外の領域に踏み出すことは、これまでの「トヨタに依存するような経営や文化」からの転換を意味します。そのための中期経営計画であり、新規事業です。特にBtoC領域への挑戦においては、BtoBで培った知見を応用するだけでなく、BtoCで得られた学びを再びBtoBへ持ち帰り、両方の知見を活用し、相乗効果で会社を大きく変革していきたいと考えています。中期経営計画の実行は、東海理化が自立する意思の表れです。そしてビジネスを変革することでこそ、社員一人ひとりが「会社が本当に変わった」と実感できるようになると考えています。

安部:BtoCの領域に踏み出し、さらにBtoCで得た学びをBtoBに持ち帰ることをめざすとなれば、もう宿命として、パートナー企業や競合、エンドユーザーと広く接点をもっていかなくてはいけないことを意味します。宮間さんがおっしゃったように、これまでの東海理化は外部との接点が少なかったのは事実ですが、この点については「これまで十分に築けてこなかった」というより、今後のオポチュニティとして捉えるべきだと考えています。これをチャンスと考え、積極的に外部との接点をどんどん広げ新たな知見を得ていく。そこにBtoBで培った強力なノウハウを掛け合わせることができれば、東海理化の競争力がより高まり進化していくものと大いに期待しています。

佐藤:一つの例で挙げると、営業のやりかたにおいても、BtoBとBtoCには決定的な違いがあります。私は長く営業を担ってきましたが、BtoBであれば取引先企業の何部の誰が決裁権をもっているかなど全て把握していますから、はじめから決裁者にアプローチできます。マンパワーも少なくてすみますし、効率も良い。ところが今回、新規事業のデジタルキーの営業現場を見ていると、社用車にデジタルキーを導入してもらうために、朝から晩までひたすら営業の電話をかけています。それでも10回に1回当たるか当たらないかという世界です。BtoBの営業であれば10回中8回~9回は成果につながるのと比べると、成功率は極端に低いです。

宮間:ビジネスの構造が異なるため、BtoCに挑戦すると従来のBtoBのやりかたでは対応できないことが数多く出てくるはずです。努力している営業に対して、「成功率が1割しかないのは低い」と指摘するのは適切ではありません。挑戦する社員を応援し、支える環境を整えられるかが重要なポイントになると思います。

佐藤:BtoBしか経験したことがない人はどうしても「1割しか成功していないじゃないか」と言ってしまいそうになるところを、いかに我慢するか。BtoCの難しさを目の当たりにしたことで、「我慢ではなく応援」という姿勢が重要だと学んでいるところです。

企業価値向上に向けた取り組み

競争力を強化するために、東海理化に今求められていることは何だとお考えでしょうか?

藤岡:既存のBtoB事業における競争力は、取引先さまを大事にするだけでは維持できません。二之夕社長がおっしゃる「共存共栄」の通り、取引先さまとともにどのように成長していくかを考えることが重要です。「共存共栄」には一律のかたちがあるわけではなく、ケースバイケースで時間や労力がかかりますが、その道を積極的に探っている点は高く評価しています。

安部:BtoC領域で戦うためには、社会と幅広い接点をもち続けることが不可欠であり、それはすなわちグローバルな企業であり続けることを意味します。東海理化はすでにグローバルに事業を展開している企業ですから、中期経営計画の議論の場に海外で働く若手社員などにも参加してもらい、グローバルな視点を積極的に取り込むべきだと考えます。そもそもグローバル事業の現場に、新規事業創出につながる種やチャンスが埋もれている可能性もあるのではないでしょうか。

グローバル事業の現場に、
新規事業創出につながる種や
チャンスが埋もれている

佐藤:おっしゃる通りです。今までは全て日本人が仕切っていましたが、トップを現地の人財に任せ、仕事を現地へ移していく取り組みを進めています。あわせて、海外で働く社員にも「未来は自分たちでつくる」という意識をもって参加してもらうことも欠かせません。パーパス・ビジョン・バリューや今回の経営計画をしっかりと共有し、全員が同じ方向を向きながら、各地域の実情に即したオペレーションを進めていくことが重要だと考えています。

人財育成・挑戦文化

「未来は自分たちでつくる」という考え方を浸透させ、挑戦の文化を根付かせるには、どのような取り組みが必要だとお考えですか?

二之夕:当社ではここ数年職場環境(オフィス、休憩所、トイレなど)の改善を進めているのですが、最初は施設担当がお決まりの設計デザインを出してきたところを、「これからは実際に使う人に決めてもらおう」という方針に変えてみました。予算の上限だけを示したところ、利用者が主体的に「これが良いのでは」「この案もいいね」と楽しそうに議論しながら決めてくれました。こうした小さな経験を通して「未来は自分たちでつくる」という意識が芽生え、新しいことに自発的かつ楽しそうに挑戦するようになります。特に「楽しそうに」という姿勢こそが何より重要で、そこにどう導いていくかが経営陣に問われていると思います。

宮間:おそらく皆さんは会社に言われて仕方なく集まったのではなく、「自分たちのオフィスは自分たちで決めたい」という思いから、主体的かつ楽しく議論されたのだと思います。ダイバーシティ&インクルージョンの観点からも、「会社が言うから」ではなく、一人ひとりが納得して行動することが非常に重要です。同質性の高い組織では視点が似通い、新しい価値が生まれにくく、時に致命的なリスクに気づきにくい環境となり得ます。こうした危険性を一人ひとりが理解し、自分事として捉え、自分も多様性をもつ存在だと自覚して発信していくことが求められます。これまでは「期日までに高い品質を担保した製品を出す」といった、いわば与えられたことを確実にやりきる姿勢が評価されてきた面もあったはずです。これからは、そのやりかたを大きく転換し、社員一人ひとりが「自分が価値を生み出す存在だ」と心から理解し、行動に移せることが理想です。それこそが本当の意味での挑戦文化だと思います。

社員一人ひとりが
「自分が価値を生み出す存在だ」と
行動に移せることが
本当の意味での挑戦文化

二之夕:小さなことから挑戦を経験してもらおうと、今、経営側が意図的に挑戦を促そうとしていますが、必要なのは本当の意味での「全員参加」です。これまでも言葉だけ「全員参加」と言っているプロジェクトは多々あったのですが、言っているだけで「全員参加」した例は残念ながらありません。ただ、少しずつですが確実に変化の兆しがあり、真の「全員参加」に近づきつつあると感じています。

宮間:挑戦という言葉のハードルをぐっと下げて説明して、「これなら自分にもできそうだ」と思えるように工夫して発信されている点は素晴らしいと思います。言葉の受け取り方は人それぞれですが、「それくらいの挑戦でもいいんだ」と思えるような表現を意識して伝えているので、一歩が踏み出しやすくなっていると感じています。過去に生産部門会議で製造現場を見学した際、説明役は男性ばかりだったんです。実際に現場で働いている社員の2割以上は女性だと聞いたので、「なぜ女性は説明しないのですか?」と発言したところ、次回からは男性だけでなく女性も説明役を担い、自信をもって発言されていた姿がとても印象に残っています。こうした一歩一歩の積み重ねが「全員参加」につながっていくのだと思います。

二之夕:今課題を感じているのが、変革を推進する鍵となるはずのミドルマネジメント層が、逆に挑戦へのブレーキとなっているケースが多く見られることです。彼らが一歩前に出て「未来は自分たちでつくる」という意識に変わっていけば、自ずと自発的な動きが活発化し、挑戦文化は一気に浸透すると思っています。

佐藤:技術部門のグループ長と呼ばれるミドルマネージャーは、部長からの指示を受け、下からの突き上げもあって板挟みとなりやすく、最も悩みを抱えている層です。身動きが取りづらいポジションだけに、結果として新しい取り組みを止めてしまうケースも少なくありません。だからこそ、ミドルマネジメント層の努力をしっかり評価し、楽しさや達成感を実感できるしくみを整えることが不可欠です。

安部:ソニーでも同様の課題がありました。挑戦を支援する企業文化が浸透していても、企業が一定の規模になると、日々の安定した事業活動のためにマネジメント層はそれを支え、守らなければならないことが多く出てきます。新たな挑戦を止めるつもりはなくても、つい慎重になったり、新たな挑戦から生じうる問題が次々と想起され、無意識のうちに大丈夫か、と言った心境になったりしがちです。今回の計画の策定にあたっては、組織の中間層が初期から多く参画しました。これがさまざまな制約を回避し、挑戦を支援する文化がさらに浸透していくことを期待しています。

これからの東海理化に期待すること

今後に向けての期待や、長期的に取り組んでいくべき課題についてお聞かせください。

藤岡:中期経営計画「TRV2030」をやり遂げることが何よりも大事なことです。計画の実行を確実に支え、修正の必要が出てきた際には軌道修正を強力にサポートしていきます。今回の計画を最後までやり遂げることができれば大きな成功体験となり、必ず次の成長へとつながっていくと考えています。

中期経営計画「TRV2030」を
やり遂げることが大きな成功体験となり、
必ず次の成長へとつながっていく

宮間:ここから成果を出していくためには、やはり「人」が全てだと考えています。現状では取締役会に人財育成に関する議題があまり多くは上がっていませんが、今後は多様な意見を出し合える場の整備、多様なバックグラウンドをもつ人財が活躍できる環境づくり、さらにはリーダーの育成といったテーマが必ず浮かび上がってくるはずです。事業戦略と並行して人財戦略の重要性を認識し、両輪として検討を進めていくことが望ましいと考えます。
さらに、私が東海理化の社外取締役として果たすべき役割の一つとして、「生え抜きの女性役員を誕生させること」を掲げています。これは引き続き責任をもって取り組んでいかなければならない重要な課題であると考えています。

安部:取締役会が真に価値を生むのは「対話」からだと思います。ただ、対話の場と時間はどうしても限られています。執行側には、その場の言葉だけに反応したりとらわれたりせず、俯瞰的に受け止め、さまざまなケースに当てはめて検討していただきたいと考えます。限られた対話の内容を広げ、普遍化して実行に活かすことで、中期経営計画の実現に価値ある活用となると思っています。ぜひ取締役会の対話を最大限活用いただきたいと思います。