サステナビリティ対談

環境と人財のサステナビリティ推進で実現する
東海理化の経営基盤強化

取締役 執行役員 今枝 勝行
生産技術センター長、CN/CE戦略推進室担当
執行役員 佐々木 澄和
コーポレート本部長、ダイバーシティ推進室担当

※CN:カーボンニュートラル CE:サーキュラーエコノミー

サステナビリティ推進を取り巻く外部環境認識

今枝:佐々木さんとは同期入社で若い頃は、スキーや釣りなど自然に触れる遊びを一緒にしてきましたが、今は雪も魚も少なく、当たり前にしてきたことができなくなったと感じています。このままではさらに失われてしまう地球環境を、守りそして取り戻していくには、企業が果たす責任はとても重要だと考えています。

佐々木:その通りですね。当社においても、2021年に「カーボンニュートラル戦略2030」を策定し、取り組みを進めてきましたが、社会全体の危機感の高まりから、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)やSSBJ(サステナビリティ基準委員会)サステナビリティ開示基準など、より高いレベルでの取り組みと情報開示が求められるようになってきています。

今枝:多発する異常気象など、気候変動の影響は明らかで、一時的な反ESGの動きがあったとしても、さらに加速していくと感じています。そして、それは環境分野だけではなく、少子高齢化による労働力不足など、持続可能な社会の実現には多くの課題があります。サステナビリティに対する姿勢が、企業の責任として問われる時代になっていくでしょう。

佐々木:最近では、生産から廃棄まで全ての工程を包括的に評価する、LCA(ライフサイクルアセスメント)の取り組みも求められていますが、この取り組みについては、どのように考えていますか?

今枝:欧州の自動車業界を中心に環境データを共有するしくみが整備され、日本もこれに連携するシステムができてきました。当社もしっかりとそこに追従していかなければならないですね。データ収集の体制構築はまだ十分ではないですが、JAPIA(日本自動車部品工業会)と協力して、しっかり取り組んでいきます。

佐々木:正直なところ、こうした社会の流れに対し、私たちの仕事は、まだまだ、情報開示要請に対応することで精一杯な状態で、本来、めざすべき姿に手がのばせていないのではと感じています。ESGやサステナビリティの話題は、社員がなかなか自分事化しにくいので、企業に求められていること、背景や目的、会社の取り組みを社内外に丁寧に発信していく必要がありますね。

今枝:我々がめざす姿をしっかり描いて、社員に伝えていきましょう。

「カーボンニュートラル戦略2030」の進捗と次に向けた取り組み

佐々木:カーボンニュートラルの達成は、今後の会社の成長にとっても非常に重要で「TRV2030」においても経営基盤を支える柱の一つとしていますが、「カーボンニュートラル戦略2030」に対する進捗はいかがでしょうか?

今枝:製品、調達、物流、生産の4つの領域で2030年までの戦略を立てていますが、その中で目標として掲げている、製品CO2の10%低減 (低CO2材料の利用など) や、本社工場カーボンニュートラル実現は、達成が見通せる段階まできています。
また、生産CO2に関しても、60%低減の達成に向け、中部電力ミライズ株式会社との間でオフサイトPPAを締結し、再生可能エネルギーの導入を加速させています。
ただ、長期目標として掲げるグループ全体での2050年カーボンニュートラル実現には、従来の延長線上では限界があり、革新的な生産技術の開発が必要です。CO2排出の3大要因である塗装、鋳造、熱処理において、新工法の開発を加速させなければなりません。
塗装では、大幅な省エネと省スペースを両立した「型内塗装」や「コンパクト塗装ブース」といった技術を開発し、量産の目途が立ちましたが、これを皮切りに第2、第3の革新技術を生み出すための旗振りが私の役目だと感じています。

佐々木:環境を意識した設計や生産技術を考える必要性が、まだ十分浸透していないため、そこを進めなければと思います。自身の仕事と環境への貢献が結びついて、自分事化するフィールドへと進んでいかなければなりません。

今枝:取り組みの一つひとつがどれだけCO2低減になったか、環境リスクを低減できたかを実感できるようにすることが必要だと思います。そして、昨年刷新した環境スローガン「考動ひとつで変えられる “TRy for the future”」が、我々の取り組みに対する姿勢です。これをしっかりグループ全体に根付かせ、全員が同じ方向を向いて取り組まないといけない。また、活動は実のある活動にこだわっていきたい。環境の動向は変化が激しいため、戦略とKPIは柔軟に見直していくことは必要だが、カーボンニュートラルの達成のためだからと言って安易にクレジットを購入するのではなく、省エネ活動の推進や再エネの導入拡大など、実際にCO2低減につながる、気候変動対策に貢献できる施策を選択していくべきだと考えています。

※オフサイトPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約):電力需要家(企業や自治体など)が、自社敷地外にある再生可能エネルギー発電所から電力を長期契約で購入するしくみ

人的資本経営の推進と「考動」を生むしくみ

佐々木:当社は、2024年に、全員活躍に向けた人事戦略、社員一人ひとりが働きがいを感じることができる会社をめざし、人的資本経営の方針を発表しました。全ての人がいきいきと働き、活躍できる組織風土を構築する。そうした企業風土を土台に、社員が自律的に挑戦し、活躍するために支援する。そして、成果を創出するためのしくみを構築する。この3本の柱でさまざまな取り組みを進めています。現在は、やるべきことを一つひとつ進めています。それとともに、「TRV2030」では、「挑戦」から「成果を具現化」できる会社をめざし、挑戦と変革を実現する人的資本経営の推進を掲げ、「健康経営の推進」「変革をリードする人財の育成」「挑戦・成長・活躍機会のさらなる拡大」の3つを重点に取り組むことを発表しました。

今枝:当社の年齢構成を考えると、50代、60代が増加していく中で、この世代に活躍してもらうための施策や、人財の育成が企業の成長の鍵になると思います。

佐々木:その通りですね。60歳以降も含め、活躍し続ける社員に対し、モチベーションや成長意欲の向上をねらい、役割発揮に連動した制度に変更します。人財育成についても、社員の挑戦を引き出す職場の風土を醸成するためには、やはり、マネジメント力の強化が必須です。「仕事の完遂」から「メンバーの成長」に軸足を置き、マネジメントの底上げも図ります。また、これまで、どちらかと言えば、OJTが中心であった各種教育についても、改めて会社として必要な教育を体系的に整理し直し、必要なスキル、能力を明確にしていきます。

今枝:モチベーションの向上、マネジメント力の強化、教育体系の整備、どれもとても大切ですね。会社としてしっかり進めていきましょう。

佐々木:DXの推進やAIの活用は、今後の成長の鍵になると思いますが、生産技術、モノづくりにおける取り組みの課題は?

今枝:生産現場では、IOTセンサーによるリアルタイムデータの収集、AIによる設備異常や品質の予測検知の導入を始めています。DX、AIを活用するには、従来の技術に加え、デジタルリテラシーやデータ分析力をもつ人財の育成が不可欠です。現場の技能者が自らデータを活用し、改善提案を行える体制を構築していきます。
人事戦略は、環境よりも定量化が難しい中でKPIを設定し活動を進めなければならないと思います。非常に難しい局面ですが、もち前の明るさとパフォーマンスで社員を良い方向に導いてくれることを期待しています。

佐々木:部品は設計で決まる部分が大きいですが、生産技術によって最終的な製品品質を向上させ、「生産技術でモノづくりは変えられる」ことを証明しました。環境面での革新的技術開発も含め、さらなる活躍を期待しています。